料理に砂糖は使わない、という友人がいます。「甘みはみりんだけで」という話を聞いていると、彼女の煮物の味が想像できます。料理とお酒が大好き、毎晩さっさと肴を作って晩酌を楽しんでいる彼女の煮物は、出汁が効いていて薄味、甘みがあっさりしているのでしょう。「きんぴらも、みりんだけなの?」と聞いたら、「当然!」と言われてしまいました。料理上手には、案外そんな人が多いのかもしれません。私も真似してみようかしら。
若い頃、エジプトで知人の家でふるまわれた親子丼は、ワイン&砂糖がみりん代わりでした。最近は日本の調味料が世界中にありますが、当時の彼の地で手に入るものはごくわずか。親子丼を食べられるだけでありがたかった私は、知人の「みりんがあるといいのにね」という呟きが不思議でした。「醤油や味噌と違って、他のもので代用できるのになぜ?」と。
でも、もし今、私が同じ立場だったら、「みりんが欲しい」と切実に思うに違いありません。
みりんは他にない独特の調味料。それを実感したのは、はじめて健菜のみりんを使った時のことでした。いつもと同じように作った小松菜のお浸しが「あれ?!」と思うほどおいしく、そのわけは「みりんだ」と気づいたのです。健菜のみりんを使うと、肉じゃがやけんちん汁、だし巻き玉子、そばつゆ等、どれもはっきりと味が変わりました。
原料のもち米や麹、酒蔵での醸造方法など、おそらく真面目に「本物」を追及しているのでしょう。それまで安易に選んでいたみりん風調味料とは縁を切って、健菜のみりん一筋になりました。
先日、古雑誌を整理しながら、記事をつまみ読みしていたら「発酵調味料はずるい」という一文に目がとまりました。フレンチのシェフが「みりんなど、日本の発酵調味料は、それだけで旨みを高める力がある」ことを「ずるい」と表現していたのです。なるほど、塩や砂糖にはない力です。
そのずるい調味料、大いに活用させてもらっています。
(神尾あんず)
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