「だしパックに頼ろう」
わが家で開く茶事の準備をしていた私がそう決めたのは、前日の深夜。お点前の前に出す料理の下ごしらえが、やっと一段落した時でした。タイの昆布締めをつくり、サワラを幽庵に漬け、エビ真丈がやっと出来上がり、「さて」、と翌朝、すぐに出汁がひけるように利尻昆布と花かつおを取り出したのですが...。
「上手にできるかな」
急にそんな不安が頭をもたげました。自分でひいた出汁はうま味が乏しかったり雑味があったりで、いまひとつ自信がありません。結局、「本番は伝家の宝刀『じん』に登場してもらおう」と決めたのでした。
この時の茶事は、茶道の先生を正客にした、稽古の延長のようなもの。事前に献立の相談をした際、先生から、懐石のメインディッシュともいえる煮物椀には「エビ真丈を」と言われて、思いの外てこずることになりました。何せ真丈をつくったことがありません。4回試作してどうにか形になりましたが、肝心の煮物椀に注ぐ出汁は、事前に練習することができませんでした。
けれど、本番で『じん』を使ったことは大正解。やるべきこと満載の日、手間要らず、失敗なしで料亭なみの出汁ができたのですから...。皆から「いいお味!」と感心されました。でも、出汁パックを使ったことはナイショ。
基本の出汁こそむずかしい
最近は色々なだしパックがありますが、上品な味は少ない気がします。内容を見ると様々な素材を複層的に混ぜ、うま味や香りのインパクトを強めていると分かります。
でも、『じん』は違う。素材は昆布とかつお節、干し椎茸とシンプルで、完成するのは日本料理の基本となる澄んだ味です。だからどんな料理にも使える。じつは素人には、もっともつくるのがむずかしいのが、この出汁ではないかしら。
わが家では『じん』に日々、活躍してもらっています。味噌汁や煮物はもちろん、素麺のつゆもこれ。おかげで本格的に出汁をひける日は、なかなか訪れそうにありません。
(神尾あんず)
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