萠出守さんの農園を訪れたのは昨年の9月。9時に到着すると、皆はかぶの出荷準備に追われていた。流水で次々に土を落とし、手早く葉を整えていく。
「まずは食べてみてください」
そう言って萠出さんが差し出したのは、美しい小かぶである。葉はピンと立ち、白い胚軸(実)ははち切れんばかりに皮がはり、つやつやと光っている。驚いたことに、萠出さんは大胆にも手でかぶの皮をむき始めた。
「えっー!! そんなことができるの?」
すると、萠出さんの顔がほころんだ。
「こうやって丸ごと生でかじってもらうのがいいんです。ね、桃の香りがするでしょう」と。
その言葉どおり、かぶりついた小かぶは、よい香りがした。きめ細かい果肉には、ほんのりした甘さだけでなく、辛みがつまっている。「丸ごとかじれ」とすすめるだけのことがある、格別なおいしさだ。
萠出農園は、青森県東部、下北半島の付け根の東北町にある。昔はしばしば冷害に見舞われた土地だ。その元凶は、夏、太平洋から吹きつける冷風「やませ」である。
霧混じりのやませが吹くと、太陽の光がさえぎられ、気温は一気に10度下がる。このため、一帯では稲や夏野菜の栽培がむずかしく、ごぼうや長いもなど、いわゆる「土もの」中心の農業が行われてきた。
けれど20年前、萠出さんは、この環境を利用しようと、小かぶ栽培を始めた。真夏でも太陽の光が優しく、葉にエグミが残らない。冷風は病害虫を防いでもくれる。園地は八甲田山系の伏流水に恵まれている上、土壌は粘土質の赤土だ。この土は、癖があるが、確かな栽培技術があれば、おいしい野菜が育つ。
ここはかぶの栽培適地だった。
農薬に頼らず、自然のよさを引き出すのが、萠出さんの農業だ。
「ポイントは窒素肥料を抑えること」と言う。
園地では、肩の張った実が土からたくましい姿を露出している。葉は黄色がかり、雑草と元気を競うような姿には、細やかな栽培管理ぶりがうかがえる。
北国の1年は短い。雪どけと同時に土を耕し、それから早い冬が訪れる11月までは、忙しい毎日が続く。
「20年間、休日はゼロ......です」
集落では、月に2度の休農日を決めている。だからその前日は2倍仕事をするのだが、結局、当日も畑に出ることになってしまう。
「野菜は待ってはくれませんから」と。
作業のタイミングは野菜の顔色が教えてくれる。それを見たら、からだを動かさずにいられないのだ。
そんな萠出さんは、「うちの小かぶには、旬が1年に2度あります」と言う。それは、5月下旬から6月に採れる春栽培のものと、10月以後の2度。低温の中で成長するので、栽培に通常の1.5倍も時間がかかるのだ。
「とくに春栽培ものは、味が濃厚で香りもいい。自分でも『うまいな』と思います」
つまり、ほどなく萠出農園の小かぶは収穫時期を迎え、旬の味が皆様の元に届くことになる。
その小かぶは、夜中の2時に畑に出て、ヘッドライトを頼りに収穫してきたものだ。太陽が昇ると、葉はたちまち張りを失う。夜明け前の収穫にこだわるのは、葉がいきいきとしている状態で、食卓へ届けたいからだという。
「私たちは葉っぱにも、ものすごく気を遣っているんです」
葉もおいしく食べられるのが、かぶのよさ。
「葉を捨てずに食べてください」
萠出さんからは、今年も順調との報告がはいっている。お届けは間もなくだ。
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