「1週間、早く来てほしかったわ。白玉ねぎの自慢をしたかったのに」
ほがらかな鈴木キミ子さんに迎えられて、鈴木農園を訪れたのは2月下旬のこと。そこは、果物のような甘い香りでいっぱいだった。農園では白玉ねぎが終わり、新玉ねぎの収穫が始まっていた。
「白玉ねぎは、この地域でしか作っていないからね」と、夫の孝尚さんも同意見。
「でも、春の先触れのような鈴木さんの新玉ねぎを、毎年、楽しみにしている方も多いのですよ」と告げると、「私たちは、玉ねぎ一筋だからね」と顔をほころばせた。
祖父母の代から玉ねぎを栽培し、子どもの頃から畑を手伝ってきたという孝尚さんは76歳。ベテランだ。
作っているのは、白、黄、赤玉ねぎの3種類。黄玉ねぎは、皮が茶色くなるまで乾燥させてから貯蔵すれば、長期間出荷できるが、鈴木さん夫婦は、新鮮な新玉ねぎしか出荷しない。というか、新玉ねぎの人気が高く、貯蔵するほど残らない。
農園があるのは静岡県浜松市南西部の遠州灘沿岸部。遠州の空っ風と呼ばれる強風が吹く一方、日照時間日本一という太陽光にめぐまれた土地だ。一帯は玉ねぎの名産地として名高い。
「この畑の土壌が玉ねぎにはいいんです。さらさらとした砂地です。
くれるという。なるほど、繁茂している根は、健康の証だ。
そう言いながら、孝尚さんが玉ねぎを引き抜くと、見事な根っこが出現した。びっしりと細かく、どこまでも伸びている。水はけがよい砂地のおかげで、玉ねぎが水分や栄養分を吸収しすぎることなく、たくましく育って
「この地域の玉ねぎは、ブランド野菜と言われていますが、生産者によって品質は違う。やはり、畑をかわいがっているかどうかですよ」
孝尚さんは、1年365日、畑を見回らない日はなく、葉の色つやなど、状態のチェックを怠らない。
孝尚さんはこうも言う。
「農業はおもしろい。自分が畑にこめた気持ちとか、仕事が返ってくるからね」
「そうだわね」と今度は、キミ子さんが同意する。
玉ねぎの栽培は8月の種まきと苗づくりから始まる。畑に苗を植えるのは9月、玉ねぎの収穫開始は1月。全国のどこよりも早い。
しかし、鈴木さんには同時並行で大切な仕事がある。それは種採りだ。黄玉ねぎの採種は、同じ栽培姿勢をもつ友人に依頼しているが、白玉ねぎは、祖父母の代から自家採種を続けている。毎年、品質の高い球を選別し、花を咲かせ(つまり、ねぎ坊主)、種を採る。おかげで今では鈴木農園ならではの個性をもつ白玉ねぎが育つ。
たとえば、形は扁平すぎずに、かさ高なことや重いこと。そして、みずみずしくて、辛みが少なく甘味が高いことなどだ。
他に代わりはないだけに、失敗はゆるされない。育種は、何より大切な作業だ。
「今年選別したものは、今、乾燥しています。これを栽培して種を採り、それを育てるから、収穫は2年後ですね」
鈴木さんは、朝、玉ねぎを引き抜いて収穫する。そして、いったん、畑に置いておく。春の風で乾燥させるのだ。
夕方には、葉と根を切り落としながら収穫。その玉ねぎは翌朝、出荷する。
他の産地は、新玉ねぎでも、3〜5日は乾燥させるところが多いのだが...。
「新鮮でジューシーなところを楽しんでほしい。だからなるべく早く食べてください」とキミ子さん。
鈴木さんの玉ねぎは、辛くない。刺激が少なくて甘いだけでなく、香りがいい。スライスオニオンは水にさらずに食べられるし、加熱すると、甘さを増して短時間でとろけるような状態になる。
玉ねぎは春が旬。鈴木農園から、3月は旬の味をお届けします。ご期待ください。
河内晩柑は、数ある晩生種の中でも最終ランナーだ。 蜜柑だが初夏の味。八代海を望む農園に生産者を訪ね...
テレビをつけたら、タレントさんが何かを食べながら「メチャメチャおいしい」と言っている場面。食べ物...
昨年の3月、有明海に面した干拓地に玉ねぎ生産者を訪ねた。 おいしさの秘訣は「にがり」。でも、それだけ...
長崎の野菜農家には厳しい春になりました。暖冬で雨が多く、計画通りの生産ができなかった上、価格が暴落...