阿久根市は、鹿児島県の北西にある海沿いの町。東シナ海に面する海岸には、暖流の黒潮が寄せ、豊かな漁場が広がり、ウミガメが産卵にやってくる。
黒潮がもたらす温かく穏やかな風は、陸の自然をも豊かに育む。健菜にもその恩恵を受けて育った絶品野菜がいくつも届く。
今回訪ねたのは、その阿久根で「くり将軍」や「恋するマロン」といった、ほくほく感と甘みが強いかぼちゃを栽培する、吉松巌さんの農園だ。
おいしいかぼちゃの秘密を探ろう! そう意気込んでやって来たのだが、畑を見て、一瞬、目を疑った。
あれ? 荒れている...?
草ボーボーだ。
しかし、吉松さんは、笑って教えてくれる。
「これは雑草じゃなくて、ソルゴーという牧草。強風対策のためにあえて植えているんです」
このあたりは台風が多いため、風に強いソルゴーをかぼちゃと混ぜて植え、防風垣にしているのだ。
「ソルゴーには、他にも土から余分な窒素分を吸い取って、かぼちゃの味をよくしたり、土壌の悪い菌を吸い出したりする役目があります」
おかげで肥料も農薬も最低限で済み、安心安全なかぼちゃが育てられる。それに、刈った草を土の表面に敷けば乾燥予防に、鋤込めば肥料にもなるという。
巌さんは、目を細めて自分の畑を見渡した。「よしよし」と畑をほめたそうだ。
「ただ漫然と作るだけではだめ。頭を使って、いいものを作らないとね」
と巌さん。
「私は『やっぱりうちのが一番!』と思って作っていますよ。これからはもっと畑を広げて、たくさんお届けできるようにしたいなあ」
巌さんは会社を定年退職後、実家の畑を継いで本格的に農業に携わり、10年。技術も知識も乗りにのってきて、今やってみたいことがたくさんある。奥様のキヨ子さんは、そんな巌さんの話をヤレヤレという顔で聞いている。じつは、巌さんが後を継ぐ前から、畑の世話をずっとやってきた。
「お父さんはそう言うけれど、良いものを作ろうとしたら、私たちにはこの広さが限界じゃないのかな」
朗らかではつらつとした、しっかり者の奥様だ。
吉松農園では8月半ばの定植以降、整列して芽かきをし、9月半ばに花付けをする。気温が高すぎる年はミツバチの活動が悪いから、ひとつずつ手で受粉してまわることもあるし、毎日何往復も水を運び、撒かねばならないこともある。
味を高めるために、実を生らすのは一株一果と決め、肥料も極力抑えている。
ある程度実が大きくなったら、腰をかがめ、座布団を敷いていく。そして、じっくりと完熟させていく。焦らずに収穫適期を待つ。
無事収穫となればうれしさもひとしおだが、ずしりと重いかぼちゃを運ぶのは、年々からだにこたえる作業になってきた。
「それでも私らは、野菜のお世話が楽しくてしかたないんですよ。農業が好きなんだからしかたないね」と、ふたり揃って笑っていた。
吉松さんの農園では、通常株間3・5メートルで栽培するかぼちゃを、5メートル開けて育てている。
「そのほうが作業しやすいもんでね。私たちは無理にたくさん作るつもりはなくて、きちんと手をかけたいの」とキヨ子さん。
かぼちゃをじっくり見てみると、ひとつひとつの実が座布団の上で斜めに傾いていることに気づく。これは乱雑に置いたわけではなく、キヨ子さんの繊細な工夫のひとつだ。
「ヘタのくぼみにはどうしても水がたまりやすいので、こうしておけば雨が降っても腐りにくいんです」
そんな気配りを50アールもの広い農園に行き届かせるのだから大変だ。これ以上増やせないというのも残念だが頷ける。
吉松農園では、巌さんが新しい手法やノウハウを取り入れ、農園のビジョンを描き、それを繊細な観察眼をもつキヨ子さんがサポートしている。ふたりの足並みがピタリと揃っているからこそ、毎日が楽しく、おいしいかぼちゃが作れるのだ。
収穫後は貯蔵をして、でんぷんが糖化してさらに甘みが高まった頃にお届けする予定だ。冬至まで、おいしいかぼちゃを楽しみにお待ちください。
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