生口島(広島県尾道市瀬戸田町)は、「国産レモン発祥の地」として有名な島。広島 愛媛を結ぶ「しまなみ海道」の真ん中に位置し、古くから水運の要所として栄え、大きな寺や神社がひしめく歴史ある島だ。瀬戸内特有の温暖少雨な気候は柑橘栽培に最適で、島の3分の2がその畑で覆われている。
瀬戸内海の穏やかな水面はキラキラと光を反射し、島全体を明るく照らすよう。その光はオレンジ色の果実をも包み込み、ゆっくりと美味を育ててくれる。まさに柑橘の楽園だ。
その生口島でも抜きん出ておいしいと評判なのが、森野裕年さんの柑橘だ。これからの季節、マイルドサザンレッド、はれひめ、プリンス清見...などを、順次届けてくれ、私たちを楽しませてくれる。
島のあちこちに点在する森野さんの畑は、どこも海を一望できる見晴らしのいい斜面にあり、爽やかな海風が流れてくる。露地の畑にはすべて透湿・防水シートを張り巡らせ、水分コントロールを徹底。ところどころ乾燥で縮れた葉があるのはその賜物だ。糖度の高い、高品質の柑橘が期待できる。
「おいしさのために厳しい環境を作りますが、これをやるとどうしても樹は疲弊してしまう。だからこそ力強い樹作りが求められるのです」
森野さんの柑橘が毎年高品質の実をつけられるのは、根の丈夫さのおかげ。そのために森野さんが使うのは、50種以上の植物原料を発酵させた酵素液だ。酵素の働きで樹自身を活性化させ、栄養をたっぷり吸い上げる根を作る。
「最近は温暖化のせいで、昔と随分気候がかわりました。生産者も力を試されますね」
雨が多い年、干ばつの年...。ここ数年は全国的にさまざまな気象にふりまわされ、市場の柑橘の味は乱高下している。その中で森野さんが安定したおいしさを保てるのは、名人とよばれるその腕にほかならない。
「よく人から『森野さんのみかん、糖度18度もありましたよ。なんで高糖度を謳わないんですか?』と言われるのですが、私は糖度ばかりアピールしたくないんです。甘さや酸味はわかりやすい目安だけど、もっと総合的な味で勝負したい。おいしければいいという考えでやっています」
一括りにおいしいといっても、品種ごとにさまざまな味わいがあるのが柑橘のおもしろいところ。
12月出荷の「マイルドサザンレッド」は赤みを帯びたオレンジ色。清見×サザンレッドで、見た目通り味が濃く、おだやかな酸味で、森野さん一押しの品種だ。
年末の「はれひめ」は、清見オレンジ×オセオラオレンジの柑橘。オレンジ特有の爽やかな香りがすばらしく、少し貯蔵して酸甘のバランスを整えてから出荷するのが森野さん流。
1月の「プリンス清見」は、清見×オレンジ。温州みかんの血もひくので、果皮が薄くて手で剥ける。内袋も薄くてとろけるような舌触り。酸味が少ないのも人気のポイントだ。
そして3月。年度の最後を飾るのは「せとか」だ。清見など3種の高級品種を掛け合わせ、とくに風味豊かで、とくに甘く、極上のおいしさを醸している。生っている期間が長く、枝の棘で傷つきやすいので栽培難易度は高いが、雨よけハウスで特別大事に育てている。
「せとかは高く売れるからと、ふつうは収穫後すぐに出荷してしまいます。でもそれだと5個のうち、2〜3個は酸っぱいものが混じってしまう。1個千円で売っている高級フルーツだとしてもです。私は貯蔵して酸味を落ち着かせてからお届けしたい。これは貯蔵で真価を発揮する品種だと思いますね」
そして最後に、6〜7月に収穫するみかんのハウスを見学。ちょうど春を再現した室温で、花芽がふくらみはじめたところだった。
みかんの樹には1年のうちにいろいろなステージがある。根や枝を伸ばす時期、発芽、開花、結実...その時々の樹の体調に合わせ、肥料、水、温度などを繊細に管理していくことが必要だ。
なかでもとくに収穫前後は、みかんにとって厳しい時期。収穫40日前から収穫終了までの約2か月間は、水を一滴もやらず、樹を絞り上げるように糖度を高めるのだ。
「ハウス栽培は究極の技術。自然のリズムに沿って、それをより極端にしておいしさを引き出す。難しくもありますが、やりがいはありますよ」
ハウス栽培をはじめた約20年前、売り先の農協からはふつうのハウスみかんと同じように扱われた。しかし味へのこだわりを捨てきれず農協から独立し、新しい販路を模索しはじめたのが6、7年前。永田農法を取り入れ、健菜との付き合いがはじまったのもこのころからになる。
こだわり続けた味はすぐに評判をよび、販路は自然に開け、今は新規の取引を断っている状態だ。
「私はたくさん売りたいわけじゃないんです。自分の努力をちょっとだけ評価してもらいたいだけなんですよ」と森野さん。おいしさを楽しんでもらえることが、森野さんの糧になる。どの柑橘も、存分にお楽しみください。
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