健菜誕生物語/黒砂糖

「鹿児島県の北のはずれに、伝統を守り、作られている黒砂糖がある」
その話を健菜倶楽部の生産担当者が耳にしたのは九州出張中のことだ。少量しか生産されず、近隣でだけ消費される食材の中には、時として驚くほどの逸品がある。はたしてその黒砂糖はどうだろうか。
それは鹿児島県阿久根市で製造されていた。製造元の松木製糖工場を訪れると、生真面目に伝統を守っている生産者との出会いが待っていた。
一年に一度だけ焚かれる窯

黒砂糖が製造されるのは年に一度だけだ。12月、サトウキビの茎に養分が凝縮するタイミングを計って、黒砂糖の製造日が決めらる。そして、20人をこえる職人たちが各地から結集するのだ。製造に立ち合った健菜の担当者は、その重労働に驚き、あうんの呼吸で展開する共同作業の様子にも魅了された。それは工場全体が熱い窯の中にあるような1日だった。
その日は、未明から窯に薪がくべられ、火入れがされる。
農園からさとうきびが到着すると、搾汁が始まる。大工場ではさとうきびを粉砕することが多いが、ここでは1本1本、ローラーでジュース分(糖液)を搾る。完熟状態で収穫しているので、無色透明な糖液は青臭さが全くなくさらりとしている。素直な味だ。
本格的な製糖作業が始まるのは、火入れから2時間後。工場長の合図で、高温の窯に糖液が流し込まれると、気を休めることも、手を止める隙もない緊張した作業が続いていく。
焚き口では熟練の窯番が、劫火を操る。工場長の石澤光男さんに言わせると、温度を思うように上げられるから、窯の方がいいのだそうだ。
「機械に頼るより、職人の経験のほうが確かなんだ」
鉄窯は一番から三番まである。窯番の職人は煮えたぎる糖液を攪拌しアクを取る。石灰ではなく、細かく粉砕した貝殻を混ぜるのは、昔ながらのおいしさへのこだわりだ。窯でジューという轟音とともに白い煙が立ち込める。
最後の三番窯に移される頃には、糖液はトロリと重くなっている。それをさらに煮詰め、ここぞという瞬間に工場長が「よし!」と声を上げると、間髪をおかずに糖液がくみ上げられ、木型に流し込まれていく。
そして、あとは静かに冷えて固まるのを待つ。
自家農園でさとうきびを栽培

※生産者の松木さん(左)と中川さん(右)
原料のさとうきびの品質も特筆すべきものだ。ここでは直営農園で栽培したさとうきびだけを使う。アクが増えるのを嫌い、永田農法を知る以前から除草剤の使用をやめ、肥料を最小限に抑えて栽培されていたものだ。高台の斜面に拓かれた農園の土壌も環境も申し分がない。栽培の北限に近く、冬は低温にもなるので、沖縄に比べるとサトウキビの背の高さは3分の2程度だし、収穫量も通常の60~70%しかない。
その反面、糖度は高く、19~20度にも達する(一般は13~15度)。完熟で収穫し、一両日中には黒砂糖を作り上げる。
健菜倶楽部がこの黒砂糖の販売を開始したとき、製糖の関係者たちはそのことをとても喜んだ。九州ではさとうきび畑が消え、製糖工場も次々廃業する中、「踏ん張ってきてよかった」というのだ。そして「本物が分かる人に会えた」と。
この黒砂糖は、黒糖特有の野生的な風味がありながら、酸味や苦味が少なくて食べやすい。黒蜜を作ると、こっくりとしたコクがあり、なんともいい味だ。煮物に使う方も少なくない。
毎年12月に製造される伝統の逸品。ぜひ一度ご賞味いただきたい。
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