健菜誕生物語/健菜特選みりん
健菜特選みりんの仕込みは、毎年2月中旬に始まる。その直前、奈良の八木酒造には健菜米のふるさと新潟の吉川地区から醸造用の米が運ばれてくる。
みりんは米麹ともち米を焼酎で仕込んで糖化させることで造られる。健菜特選みりんは、要となる麹米(酒米)に「五百万石」が、掛米にはもち米「こがねもち」が使われる。もちろんどちらも永田農法で栽培した名人の米である。
「これから三週間が一年で一番神経を使う時期です」と言う八木春樹さん(八木酒造会長)は、「なにしろ、こんなみりんは他のどこにもありませんから」と言葉を続けた。
3人の仕掛け人のこだわり

※永田照喜治氏(左) 永谷正治氏(右)
健菜特選みりんの醸造は1999年に始まった。その影には3人の仕掛け人がいる。健菜倶楽部顧問の永田照喜治さんと、酒造指導者として有名な永谷正治(故人)さん、それに大手みりんメーカー醸造研究所の責任者として定年を迎えた内田正裕さんである。
3人には最上質のみりんを世に送り出したいとの思いがあった。みりんは本来、もち米で造るものだ。ところが、一般に出回っているみりんは、もち米ではなく普通米が使われていたり、精米の際に捨てられる白糠を原料にしていたり、あるいは麹を使わず醸造用アルコールで仕上げているものも少なくない。「みりん風調味料」にいたっては、でんぷん、水飴、添加物を混ぜて数日で造ってしまう。
当たり前のことだが、まずい調味料で料理がおいしくなるわけがない。では、健菜みりんはどう醸造するべきなのか。原料に永田農法で栽培されたもち米「こがねもち」と酒米「五百万石」を使うこと自体が豪勢な選択だったが、さらに精米歩合を60%にすることが決められた。つまり、吟醸酒造りと同じ割合まで精米して、雑味を削り去るという大胆な選択をしたのである。
醸造は、みりんの第一人者である内田さんの指導のもとで奈良の八木酒造があたることになった。奈良公園の東側・春日原生林の山麓で中世からの日本酒造りの伝統を引き継ぎ、古い酒蔵を守ってきた老舗は、手間のかかる昔ながらの酒造りへの挑戦をいとわなかったが、しかし、戸惑い、緊張することも多かったという。「例えば米が水を吸う速度が違う。今も一瞬も気が抜けない」と八木さんは話す。
かなり高めの温度で走らせる(発酵させていく)が、えぐみが残らずどこまでも端麗なところは、吟醸酒に近い。もろみを絞るにもゆっくりと無理せずに絞る。酒粕が多く残るのは承知のうえだ。原料に対して完成するみりんの量は通常の半分にも及ばないが、それを精米前の玄米の量で比べたらどれほどの差になるだろう。
「正直いって、こんなすごいみりんを造っていいのかとハラハラした」と八木さんは最初の醸造を振り返る。
飲みたくなるおいしさ
最初のみりんが完成した時は、関係者が一同に集まって試飲会が開かれた。その味はトロリと濃厚で、甘く、そして「いけるね」と誰もが言い合う、納得の味に仕上がっていた。飲んでおいしいみりんに仕上がっていたのである。
これは思惑通りでもあった。もともとみりんは調理専用ではなく「飲む」酒だったからだ。みりんを焼酎で割る飲酒を「柳陰」とか「本返し」というが、うまいみりんがあれば、そんな飲み方も復活するに違いない。一方、この試飲会に出席した、京都の料亭・梁山泊の橋本憲一さんは、和食を食べた後に、柑橘類の果汁を落とした健菜みりんを食後酒として飲むことをすすめる。ポートワインやブランデーより、和食には健菜みりんの方があうという。
熟成する面白さ
みりんは和食になくてはならない縁の下の力もちである。椀ものや照り焼きのたれに、ちょっと加えるだけで、ぐっと味をひきたてる。砂糖の甘みでもなく、料理酒の香りとも違う。目立ちはしないが、健菜特選みりんを使うと、煮物もめんつゆも格段においしくなる。
健菜の絶品食材の中でも派手さはなく、ひかえめな存在だが、そのじつ、1999年のご紹介以来、長らく愛されている商品となっている。最近では、長く置けばおくほど味がまろやかになるという声も聞かれるようになってきた。
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